公的機関における仮説思考とは

仮説とは、ある現象を理論的に統一して説明するために立てられた経験科学上の仮定と定義される(大辞林より)。そしてビジネスにおける仮説とは、あるテーマや論点に関する「仮の答え」、例えば「AをすればBになるだろう」などである。この「仮の答え」を検証するためにはリサーチや分析による状況証拠を集め、説得力を高める必要がある。
公的機関における仮説とは「国や自治体における将来予測」、すなわち国民の生命や財産を保障するための政策課題とは何か、公共の福祉を増大するためには何が必要か、例えば労働政策として失業率を下げるためには何が必要か、労働者の賃金を上げるためにはどうするか、地方創生や女性の活躍のためには働き方をどうするか、などである。公的機関は前例踏襲、繁文縟礼になることが多く、また公的機関への批判として前例踏襲もあり、前例という事実を踏まえつつ、さらに仮説を立て国民や住民にとって何が重要であるか、打ち手の精度を高めることが重要な戦略であると考える。

公的機関に限らず大企業一般の業務の進め方として、縦割り主義、すなわちセクショナリズムが言われることが多い。例えば、SONYにおいてカンパニー制を採用したところ、各事業部が近視眼的に自己の事業部の利益を追求するあまり、事業部毎の横の連携がなくなりセクショナリズムの強化に繋がったとの評価もある。また成果を追求するあまり個人主義的働き方になること、危険回避型の働き方になり失敗をしないことが評価に繋がる、そのため前例踏襲になり易くなる。また組織には経営理念があり、その下にビジョン、そして全社戦略がある。公的機関においては経営理念とは、例えば政府方針であり、その下に時代状況に応じた各省庁の国家戦略、そして各省庁や自治体における政策課題がある。国会と行政における抑制と均衡、さらに各省庁における権限争い、また省庁内における各部局での摩擦、さらに国民等のステークホルダーにおける対立が公的機関の課題であり、政策を実現するために困難となる。

上述の課題を乗り越えるためには、前例というファクトに基づきつつ、さらに仮説思考の重要性を高める必要がある。この仮説思考のためには、現在国にとって何が課題であるかの仮の設定をする。そしてどこに問題があるのか、なぜ問題が発生しているのか、それではどうするかを考える。また、仮説の説得力を高めるためにはリサーチや分析により状況証拠を集めることも必要である。つまり世論調査住民投票ソーシャルネットワークサービスなどを活用し、KSF(Key Success Factor)とは何かを考えることも重要かもしれない。
国会と行政、そして世論における相互の信頼関係を構築することがセクショナリズムの回避に繋がる可能性もあり、このためにはファクトベース思考と仮説思考を組み合わせること、コミュニケーションの説得力を高める必要がある。公的機関における課題とは何かを考え、修正を繰り返すことで打ち手の精度を高めること。さらに業務は相互間のコミュニケーションを通じて行われるため、仮説とパッションを持ち続けることがこれからの公的機関の職員には重要であると考える。